駅前広場を通る時、小雨が降ってきた。 よく見れば、周りにちらほらと傘を差すひとがいる。ジュドーは空を見上げた。曇りがちだが、黒くもないし、明るい。通り雨だろうと、家へ引き返すのはやめた。 なにしろ、店が開く前にビデオを返さないといけないのだから、時間をロスしてはかなわない。延滞料金なんて無駄金払うなら、コンビニにある募金箱にでも寄付する気分満点のジュドー・アーシタだった。 …とはいっても、目に入る雨粒は冷たくて、運転しづらいものがある。首にかけたタオルで顔を拭い、ふとジュドーは出掛けの一件を思い出した。 「…アレ?カミーユさん?」 もしかして、今の状況を見越しての『タオル投げつけ』だったのか?さすが、彼は予知に長けている…か、もしくはテレビのニュースを欠かさない几帳面か、だ。 「…だったら、悪いこと言っちゃたなぁ〜〜って、だったら、タオルより傘じゃないの?!普通!」 心優しいのだが、ちょっと偏屈。それがカミーユの性分なのだと、身に染みておきながら、ジュドーは心の中で恨み節を唱え始めた。 するとどうだろう、雨足が強くなってきた。目的地まで、あと信号ひとつってところで、どしゃ降りになった。しかも、信号は赤。 「こんなところで、赤?!だから、オレはシャアって人が好きになれないんだっつーの!」 日頃の恨みつらみも重なって、今度はもう一方の同居人への愚痴登場である。ジュドーはタオルで籠の中の品を雨から庇いつつ、店の軒先で恨めし気に信号待ちをした。ここの信号はあと二分待たなくてはならないから、もう最悪だ。 もしかすると、最強ニュータイプの逆襲かもしれない……ふと、ジュドーはぼそり呟きそうになって、慌てて口をつぐんだ。戦中はアーガマのクルーに『恐怖の地獄耳ニュータイプ』とまで呼ばれたカミーユへ、もしこんなぼやきが届きでもすれば…。 「雨だけじゃなく、今度は…カミナリ、だよなぁ…うぇ〜こええッ!」 ブルリ、と体を震わし、返却間に合うだろうかと腕時計を見た。 相手は、地獄耳と奇蹟を兼ね備えた天使のようでいて小悪魔な猫、史上最凶のニュータイプ能力者である。色々と油断はできない。 なにしろ、Zのバイオセンサーの暴走で開眼し、敵のサイコミュさえも手足のようにあしらう支配力は…あの『連邦の白い悪魔』と称え(?)られた元祖NTアムロ・レイを別の意味で超然する禍々しさを持っていた。 だから、たとえ対峙するのが天下御免の自然相手だとしても、「あの人ならなんとかしかねない」などと無闇に恐怖を覚えるジュドーであった。 「オレ、すっげーひとに助けられてたんだよなぁ…昔…」 それから、よくそんな人間に…破れるって分かっていたのに心底惚れていたものだと、ジュドーは過去の己が持っていた純情さを酷く恨めしく思った。 信号は、青緑を忘れたように艶やかな赤を照らす。 「ホンット!好きになれねぇー」 |
「カミーユ、」 「あ…、なんですか?」 「カミーユ?」 「だからッ、…んん!……なんなんですか?」 「………カミーユ…」 「……怒りますよ、大尉。用件を言って……あ、ン…言って、くださいってッ!」 「怒りたいのは、私の方だよ……カミーユ、」 「…んん、もぉ……なんで?」 「…寝言半分だろう、君」 「ハ…?」 「睡眠不足も、診療過多で疲れているのも、気持ちいいのも分かるが…」 (さらりとテク自慢かよ、このひと…) 「……ン、…寝、寝てました…?俺…っかしいなぁ…」 「喘ぎ声が夢うつつなのだよ」 「……ヘンタイ」 「眠ってもらっても、いっこうにかまわないがな。……それでも、私は続けさせてもらうよ?」 「本ッッッ当に、変態だな!アンタ!!」 「欲深い男と呼んでくれ」 「…笑って言いますか……それを」 「目は覚めたようだな、カミーユ」 「…おかげさまで」 「いやいや、私は嬉しいよ。眠ったかわいい君を撫でるのもいいが、私は君と目を交わしながら交わる方が好きだからね」 「………ああああぁもぉ!…なんだって、そんな恥ずかしい言い方しかしないんだよ、あなたは…!」 「フ…照れる君も可愛いものだ」 「…余裕ぶらないでくださ……ッ、あ、アァッ!」 「余裕じゃないさ……お互い、余裕なんか……ないはずだ…カミーユ…」 「ア……ア、ア、ア、アァッ…!……ン、…大尉、たいぃ…」 「カミーユ」 「あ…はぁ…大尉、クワトロ大尉…たい……シャ…ア?」 「カミーユ」 「なん…」 「………」 「……えっと…あの、」 「……まあいいさ、」 「なんですか、それ…ちょっと、…ンンッ、や、あ、…ご、ごまかさ…アゥッ!」 「ごまかしてやしないさ、カミーユ。君は忙しないな…そう思っただけだよ」 「それとこれと…辻褄…ッ!…だ、だからぁ……ア、ダメ…ダメです、そこ…」 「ん…どこだ?」 「や、やぁ…そこ、そこはダメですって…!」 「ここか?」 「え?え、ええ」 「…了解した」 「ちょ、ちょっと…ア、アァッ…だからダメだって…あ、ああぁ〜!!…クソ、俺って馬鹿だぁ…」 「ハハ…ほんとうに忙しない子だな…ひとりを相手に色々と呼びかけなくてはならないし…」 「い、いろいろですか、大尉?」 「…あぁ、…そう、そうだったな。君のお気に入りは『大尉』だったかな」 「あ、すみません…つい。ずっとそう呼んでましたから…」 「いいさ、それも私なのだから」 「大尉は…あッ、大佐…じゃない、…その、シャア…さん……は…」 「シャア『さん』?」 「え…あ…」 「えらく他人行儀になるな」 「あ…すみません。…ちがう、…違う、違う、そうじゃなくて!」 |
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