くたびれた男を真正面に捉え、彼は溜息をついた。 とたんに、相手の顔が曇る。 …同時に、彼が手をつく窓も白く曇る。 |
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ドアを開ければ、自動点灯がアムロの帰りを出迎えた。 壁の操作パネルで室温をやや高めに調整し直し、上着をソファへ投げ捨てた。服と向き合うように、彼はどっかりと腰を下ろして…天を仰いだ。 「……はぁ、……つっかれた…。」 帰宅直後のうら寂しい感傷は、慣れた。一人暮しが今までなかったわけでもないのだが、誰も自分を知らぬ環境下での生活というものはそうすんなりと馴染めないものだ。気まぐれにハロでもまた造ろうかと思いもしたが、暇も資材の余裕もここにはなかった。そうこうあくせくしているうちに半年、一年と時間は流れていった。 今頃、ここで唯一頼りになった少年も、無事に辿り付けただろうか? 「…っと、そうだった!」 その少年から何度も怒られた忠告を思い出して、彼はソファから飛び起きると慌てて室温を低めに戻した。 「シャイアンでの贅沢癖が身についちゃってるよなぁ…、俺。」 何よりも空気の余裕がない。この地で生きて暮らし続けるに対して己の心構えがいかに甘えていることを、アムロは日常のふとした物事で実感させられるのだ。 地球生まれの連中がノイローゼになりやすいのも頷けた。 ここは、地球はもとより、月やコロニー以上に厳しい生活環境なのだ。 アムロは手元のリモコンでパソコンの電源を入れ、キッチンへ地を這うようによろよろと腰をかかえて向かった。 コーヒー・サーバーへ水を流してセットした後からパソコンのメールボックスを開く習慣は、この星を訪れてから身についた。しかし、今日はいつもとは違い、メールの容量が大きい為か、コーヒーが沸いた後もパソコンはチカチカとアクセスを繰り返している。 「………おいおいおい…いったい、どこのどいつだ?こんなに重いデータ送ってくる奴はぁ…。」 ズズッとコーヒーを音を立てて啜り、アムロは眉を顰めてディスプレイとにらめっこした。添付ファイルは圧縮されているとはいえ、この容量は尋常ではない。 (映像データ?) 十数分かかってようやく受信し終えたメールを開けば、文章は空白で、添付のファイルが実質の用件らしい。 『やっほー、アムロさん!俺、ジュドー、覚えてる?』 素っ頓狂な声が流れ、アムロはブッとコーヒーを吹いた。 「ジュドー?!」 ディスプレイにのっそりと登場したのは、一年ぶりに見るジュドー青年の…顔面アップであった。 「なんだぁッ?!いきなり!!」 突然の再会に、アムロはよろりとソファへ手をついた。 『お久しぶりっす、アムロさん!』 掛け声賑やかに両手をブンブン振りまくる茶髪の青年は…一年前に見たまま変わらず愛想がよかった。 「ジュドー……これ、録画だっての……」 画面の勢いに飲まれそうになり、アムロは苦く笑ってソファへ沈みこんだ。 すると、画面外から少々不機嫌な声が響いてきた。 『おい、ジュドー。これ、録画なんだぞ。』 『あーーーわかってますって、カミーユさん!』 (あ、カミーユ…?) 懐かしい声に、アムロの腰が浮く。しかし、目をこらしても彼の姿は画面に映らない。どこかの家のリビングで撮影したのか。『オッケー』とばかりにVサインを出すジュドーの姿だけだ。 ふと、グラリと映像が揺れ、アムロはそこで彼、カミーユがカメラを回していることに気づいた。気づけば、脳裏にその賑やかな様が描ける。 「……そっか、…会えたんだな……おまえら」 アムロは、フッと安堵の息を吐いた。コーヒーの匂いが目の前に広がる。カップの残りを飲み干して、アムロは自分が今まで肩意地はっていたことに気がついた。 木星暮らしは、彼が想像していた以上に過酷なものだったからだ。 『えーっと、本当は相互通信で色々ゆっくり話したかったんですけど、カミーユさんがケチで、あでッ!』 『…………嘘つくな、ジュドー…』 『……ハイ、嘘です。連邦の連中にアムロさんの居場所知られないようにって、予防策だったんですよね?……て事です、アムロさん。』 カミーユに蹴られたらしき脛をさすりながら、ジュドーはニカッと笑いかけた。 『傍受されないように、あちこちのコロニーを経由して送信しましたから、これに返信できませんからね?』 気をつけてくださいよ、と画面越しに諭されて、アムロは肩をすくめた。 「返事しようにも…君たちへどんな言葉を返してよいやら…」 『…ジュドー。もういいから、本題。』 『あぁ…っとと、忘れてた!』 「そうそう、本題にそろそろ入れよ。」 こうして聞いてみれば、カミーユとジュドーはなかなかいいコンビじゃないか…。アムロはクスリと笑い、相槌を打つ。 『オッホン!…んーと……』 (こんな連中の傍にいたら、シャアの奴もさぞや…) 『ハッピーバースディ、アムロさん!三十ん〜歳おめでとう!』 (……!) 瞬間、暖かな光に満ちた目の前が、血のように赤く染まった。 「…んなッ!」 愕然として、アムロは瞬時にモニターへ目を戻す。 「……そ、んなことで、危険なことをして!君らは!」 激号する先には、ちっとも悪びれずに笑うジュドーの立ち姿があった。 |
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