言の靴跡

Written by Jun Izawa


U.C.0088. ?. ?.

「ミネバ様?このような時間に御出でになるとは…怖い夢でも見ましたか?」

「…は?……あぁ、それは…」

「……それは、男の名前ですよ。女性にもいるようですが」

「は…そうですね、やさしい響きだと…私も感じます」




U.C.0088.10.25.

「ネオ・ジオンが暗礁領域の廃棄コロニーを改造していると?」

「………急ぎ、その場所から地球までの最短ルートと時間を調べろ。ああ、ネオ・ジオンはコロニー落としを企んでいる。」

「ハマーンめ…ダカールでしてやられたとはいえ、早急すぎる。…ギレンが一年戦争でやった手をつかうほど、追い詰められているというのか?」




U.C.0088.10.26.

「キグナンか?地球へ至急降りてくれ。頼みたいことがある」

「行き先?…イギリス、ダブリンだ。ああ…ああそうだ、おまえには悪いが、とんぼ帰りだな」

「……確か、あそこには政府高官の隠れ家のようなものがあったはずだな。…ああ、「ブナ屋敷」とかいう…」

「なあ、キグナン。これをどう考える?アリを潰す時にお前は車を走らせるか?せいぜい指1本で足りるだろう?」




U.C.0088.10.29.

「……キグナンか。どうだ、街の様子は?大人しい?避難勧告もない?」

「どういうことだ?連邦とカラバへ確かに情報を流しただろうな?…デマと受け取られ兼ねないが…不穏な気配はする。」

「ああ、私もそう思う。そもそも作戦事体がおかしいのだよ。大量虐殺ならば、艦隊3隻ほどで十分だ。しかし…アースノイド達へ恐怖を与えるにしても、ダブリンは田舎街でさほど知名度も高くはない。」

「そうだな、研究所や秘密基地のようなものがあれば、それ相当数の飛行機が避難用に飛び交ってくるはずだ。…『要人』とは、意地汚い人間の代名詞だからな。しかし、ハマーンめ…いったい何を狙うか…まさか…しまった!」

「キグナン、明日一番に病院へ行け!」

「理由がいるのか?!極めてシンプルな発想さ、奴はダブリンを狙ったわけではなかったのだよ!」

「これに連邦の力を殺ぐ戦略目的はない、市民に恐怖を与えるならどこでもよかったのだ。だから、ダブリンを選ぶこともできたのさ。キグナン、ハマーンへ情報が流れている、急げよ!」

(ダブリンを選んだのは…そこに彼がいるからだ…防げはしまいが、裏をかくことは!)



U.C.0088.10.30.

「ご苦労、キグナン……なに?…姿を…見失った?病人相手に!」

「アーガマ?サイコガンダム?!…チィッ、また…またもか!黒い悪魔め、忌々しい。」

「いい訳など…戦闘に巻き込まれたなどとぬかしている場合か、貴様!」

「……チィッ!…ファ・ユイリィがアーガマに気づいて接触していればよいが…希望的観測にすぎないか」




U.C.0088.10.31.

「まだ見つからんのか!コロニーが落ちるのだぞ!」

「カラバとエゥーゴは何をしているッ?!アムロはどうした?!」

「もういいッ、モビルスーツで退避しろ!おまえまで死なれてはかなわん!」

「………クソッ!!!」

「………………地球へ降りるぞ。月を経由して、グラスゴーのポートからダブリンへ行く。作戦の実用性を求める為にも、コロニー落下の被害データを取りに行く。…ミネバは……ロンデニオンに残す。」

「…あの子は………19にもなれなかったのかッ!」

「おのれ…ハマーン・カーン、もはや容赦せん……!」




U.C.0088.11.11.

「A班は中心部を、B班は郊外を測れ。C班は建物の損傷度と放射能汚染の調査だ。武装しているが、我々はあくまでも民間の救助団体を装っているのだ。事件からある程度時がすぎているとはいえ、ネオ・ジオンや連邦の者もこの町に少しはいるだろう。奴らと遭遇しても、無視しろ。一切干渉するな、小さなことでボロはでてくるものだからな。」

「合流は、2日後にグラスゴー空港北ウイング。キグナンがシャトルまで誘導する手筈だ。いいか、遅れた者は見捨てる、私とて例外ではないことを覚えておけ。…各自、解散!」

「私…私か?………ああ、先に献花をすませたいと思ってな…あまりに憐れだからな、廃墟ばかりでは」


「通りに靴の影?…いや、焼きつけられたヒトの遺影、か。……そうか、そうだな…爆心地で欠片ひとつ残るものか…風…ぬるくも空しいな」



「アナハイムは、君の捜索を打ち切ったらしい。アーガマもカラバも非情だな、君を置いて、さっさと飛び立っていったよ。……いや?戦時中だから、当然か…。いかんな、私だけが感傷に流されているようだ。」

「若い芽ばかりが踏み潰され…老木は安穏と年輪を重ねる……ええいッ、どいつもこいつも!!」

「私は、君の魂を地球に食わせる為に、君をコロニーレーザーから引き離したわけではない!君は!何故!死んだのだ?!」

「この…無数の名も無き足跡たちへ、私は誓おうか。
 ………あぁ…そうだ……君の苦痛と無念は、この私が…!」




U.C.0088.11.13.

「あのシャア・アズナブルが青臭い小僧に捕まったヘマを笑いに来たのか、ハマーン。ご苦労なことだ…グレミーとかいう子犬に褒美はやらんのか?」

「ついでだ。ひとつ聞きたい…ダブリンのコロニー落としで、民間の避難船まで潰しまわったのは、作戦か?それとも…ハマーン、おまえの恐れからか…?」

「目的は達成されたのだろう?今更シラを切り通す必要などあるまい…ああ、恥ずかしいのか、ハマーン…たった一人を葬る為の作戦に手間を掛けたことが。…アースノイド達へ恐怖を知らしめる為だなどと……おまえが殺したかったのは、あの子だったのだろう…なぁ?」

「私への見せしめの為か、…それとも、ニュータイプの資質に脅えたか」

「…フン、生憎だな。貴様の知るシャアが優しいものか。部下一人死んだごときで動揺する私だったか?街からの脱出口を徹底的に潰してまで、彼を殺したがる貴様の考えは理解できん」

「彼は私に忠実で、腕のよい…とても優秀な部下だった…。さて、おまえに殺された以上、部下の仇は上官が取らねばな。それが今の私の仕事らしい。」

(あの子に何を見たというのだ、彼は…ララァ・スンではない。彼は彼、カミーユ・ビダンだっただけだ。)




U.C.0088.11.14.

「地球の屑共からサイド3をもぎ取ったそうだな…ハマーン。…一度失敗した遺物を利用して未来を築くか、…愚考だな。」

「…フン、馬鹿馬鹿しい…。故郷だと?サイド3にどれほどの感傷があるものか。欠陥だらけの王国なぞ、いっそ潰れてくれればいいと思っているくらいだよ!ハマーン!」

「誕生日祝いなら、もう貰ったさ。貴様からな…」

「ハマーン、貴様が葬ったあの子の遺志は私が貰い受けた。カミーユ・ビダンは、ララァの魂と共に私にある。…フ、残念だな、今度は殺させんよ。」

「そういうことだ、ハマーン。はなから貴様と手を結ぶ意思はない。」
(あざといものだ…ひとの感情など…)

「嘘だよ……全部な。連邦も、アナハイムも、エゥーゴも、彼を鬼籍に入れた。だが、私には信じられない。あの子の気配が感じられない…」

「認めたくないのか…それとも、私では役不足ということか…?」

(ああ…君の言葉は耳に痛かったな…)




U.C.0088.11.17.

「捕虜の私を祝うなど…フ、君はよほどの酒好きか、肝の座った将といったところか………ありがたくいただくよ、グレミー少将。私は酒に目がなくてね」

「…さて、このまましばらくタダ酒に興じていたいものだが……君に、このワイン代くらいの御礼をせねばな。」

「形ないものだが…価値あるモノだ。さ、遠慮しないで、受けとってくれたまえ………『ミネバはニセモノ』だ。」

「おいおい、眼が飛び出そうじゃないか、グレミー少将。…繰り返そうか?『ハマーンの傍にいるミネバ・ラオ・ザビは、真っ赤なニセモノ』さ。本物のミネバ様は、私の部下が匿っている。」

「酔ったのか?水でも飲むかい、グレミー君。」

「……やれやれ、とんだ誕生日だ」




U.C.0088.11.18.

「起きたか、グレミー・トト君。酒は抜けたか?」

「私が君に話した理由…?簡単なことだ。私はミネバを女王にしたくないだけだよ…なに、親心というものさ」

「しかし、ジオン公国の再興は果たしたい。ならば、もう一人、ザビ家の者がいればいい。しかも、ミネバよりも年長で、血筋がより濃くある秀でた士官ならば、大衆も文句はいうまい。」

「だから、私は君を選んだのさ。グレミー・トト」

「手を組まないか?私はハマーンの首が欲しい。君は世界が欲しい。利害は一致していると思うが?」

「怖いか?私が怖いか?…ミネバはもっと怖い思いをしていたよ。彼女はただの女の子だ。運命が間違って、彼女にザビ家を背負わせた。…ハマーンはそれを弄び、ザビ家復興を謳っておきながら、その実、奴の独裁政権の誕生だ!ザビ家は御飾りだ!だから、本物のミネバが失踪しても、探さず、平気で影武者を立ててみせる。大衆の眼をごまかせるなら、ザビ家などニセモノでもよいと思っている女なのだよ!」

「君はそれでいいのか?!そんな奴に忠義をかざす道義はあるか?君が従うべきは、腹黒い俗物ではなく、君に流れるザビ家の血の叫びであろう!」

(甘いな、小僧。…ガルマといい、ザビ家の人間は詰めが甘すぎるよ)




U.C.0088.12.25.

「アクシズをこちらのものにすれば、ハマーンには不自由なコロニーと艦隊のみしか残らん。…いざとなれば、私が出るよ。約束しよう」

「なぁに、後は私に任せればいいさ。君は独裁者の首を掻き切れ。そして、魔女の血潮を浴びて、英雄になるのだ。一度途切れたザビ家の歴史も、やがて君の靴跡に繋がっていくだろう……フ、私は信じているよ。」

「行くがいい、グレミー・トト!ザビ家の栄光は紛い物ではいかんのだからな。」

「グレミーはアクシズへ…か。フッ…醜いお家騒動に乗じて、どれほどの戦力を削れるかは今後の戦況次第…共倒れは理想でしかないが、ハマーンはそう甘くないだろうな。…ブライト、後は貴方に任せるよ。良心の呵責があるのなら、ダブリンでの仇を討て。」

「……コロニーに雪が降っている…。地球ばかりかまける神でも祝っているつもりか?ここの市長は…お笑い種だな。神など、この世にいるものか。」

「…ハ、ハハハ……さあ、亡者どもよ、受け取れ、私からの手向けだ!」

(雪を染めるワインの香り……フ、明日にも血に変えてみせるさ!)




U.C.0089.01.15.

「あの新造アーガマ、妙な指揮を取る…。しかも、艦隊戦にも関わらず、一隻とは…囮か?いや、斥候部隊か…ブライト…漁夫の利を狙うか。」

「あれがZZ…どこまで大きくするつもりだ。あれではエネルギー切れを起こせば、格好の的だぞ。」

「ん?MK=2に、百式か……小賢しいアナハイムめ、懐かしいものを見せてくれる。…Z……あの子の気配はない、か…期待するだけ馬鹿をみるか」

「ではな…後は頼むよ、グレミー君。見事な花道を歩んでくれたまえ」

(まったく…あこぎな手だよ。生きていれば、君は間違いなく私を殴るな)



U.C.0089.01.16.

「ZZがハマーンを援護する?!なぜだ、ブライト!!」

「…グレミー・トト。アクシズと共にザビ家のまやかしは去ったか。惜しい人材だったが、人を導くには賢さと優しさが足りなすぎる。ただの駒であれば、死なずにすんだものを……欲張るからだよ、小僧。」

「……私に立ちはだかるのは…やはり、ガンダム…」




U.C.0089.01.17.

「……ハマーン!……死んだか…そうか……茶番は終わったな。君は…これで満足かい?」

「ネオ・ジオン、ティターンズ、エゥーゴ…ザビ家、グレミー、ハマーン…カミーユ…ララァ…これで…これで、私の影を踏む輩は全て消えた……全て…」

「…………疲れたよ、…………・……ン…眠るか…」

「………………誰もいないのか?…今夜は冷える…」




U.C.0089.03.15.

「…ダブル・ゼータのパイロット、ジュドー・アーシタは木星へ…か。子供のくせに、シロッコ同様、世捨て人となったか、ニュータイプ。」

「カミーユ、君が見つけたニュータイプも、人の業を背負いきれず、逃げていったよ。所詮、子供だったのだな…残念か?カミーユ・ビダン」

「…君の代わりは、もう見つかるまい。」

「潰えた以上、私が立つしかない、か…私が」

「残り僅かな水を若木へ与える為に、老木は倒さねばならぬ。…フ、そんなこともわからずに、私は……君をむざむざと…!」

「戦士は…生きている限り、戦わねばならない……そうだったな?」

(クワトロ・バジーナ、私は戻るよ。君とはここでお別れだ。冥府であの子を待ってやってくれ)

「わかったのさ、私の信じきれなかった理由が。…あの子の魂は、死んでも重力の井戸に堕とされたままだ。掬い上げなくてはな…ソラへ…」

あの子の帰りたがった場所へ

「だから、井戸を叩き壊すのは、シャアの役割なのだよ。」

いざなった以上、送り届けるべきは、この腕で



-End-
[Go→CCA]

言の靴跡』
2002/08/11 11:28:00 終筆
サンライズ禁
BGM:靴跡の花/遊佐未森
【Back】

- Take other story of mind from "GUNDAM ZZ" -