時は短く、一日は長い。 ふりかえる君の描く つむじ風。 |
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■ 11.November.0095//AM5:55// 朝の遅い彼が、ある日こんな憎まれ口を叩いた。 「かくも、そんなに目覚めが早いのは年寄り並みですね」と。 パチリと青い双眸が開く。彼…シャア・アズナブルは、しばし天井を見つめると、窓の明かりへ視線を向けた。その目は、眠りのまどろみを感じさせず、強い意思の光が宿っている。 おそらくは、この日光のせいなのだろうな、と彼はふと考えた。 宇宙暮らしが大半だった彼にとって、天然の朝日と夕陽のまぶしさは刺激が強すぎる。眠る脳とて、無視できるものではないのだろう。カーテンの端から零れる朝の日差しは青白く、冬であるせいか、冷え冷えとしたものを感じさせた。 夏ならば、暑く。 春ならば、心地よいまどろみを。 秋は終末を刻むような日差しを彼に感じさせた。 完全に目覚めた彼は、窓を見つめることを止め、ゆっくりと寝返りを打ち、傍らに横たわる青年の寝顔を見つめた。無防備に肢体を投げ出して安眠を貪る青年は、昨夜も遅くまでカルテ達とにらめっこをしていた。そのせいか、頬が白い。 「……カミーユ、」 薄く開いた口へそっと手を近づけた。湿った寝息が指の腹をなぞり、シャア・アズナブルの掌に安堵を注ぎ込む。息苦しさを感じたのか、身じろぎしたカミーユの肩へ毛布を掛け直し、シャアは床へ手を伸ばした。 「ハロ。」 囁きに反応したか、ベッドの下からコロリと丸い物体が転がり出てきた。それは床をコロコロと転がり、シャアの掌に当って止まった。 「ハロ、検温を頼むよ。」 「オハヨウ、シャア。健康、チェックスル」 ハロと呼ばれた球体のロボットは、かつてアムロ・レイが一年戦争時造ったらしいものと外見こそ似ていたが、戦後に玩具として世間に普及した型のものである。最近になって、また復刻版が出回ったらしい。しかし、その中身はOS共々カミーユによって完全に造り替えられており、今のハロは、医者カミーユ・ビダンの優秀な助手として生まれ変わっていた。 ハロの手で基礎体温や血圧などが測られている間、身動きできない彼は、ぼんやりとカミーユの寝顔を見守っていた。しかし、その頭の奥では、今日という記念日に対する算段…というか企みというか、計画を反復していた。 なにしろ、今だかつて、こんなふうに穏やかに誕生日を過ごせそうな年はなかったのだ。 (障害はあるがな。) その「障害」は、廊下隔てた向かいの客室で安眠を貪っているのだが。 「……まぁ、いい。」 シャアはチロリと唇を舐めた。 測定の終わったことを示すアラームが鳴り、その音に反応したのか、カミーユの固い瞼が僅かに震える。いっそ、彼が起きても眠っていようとも構わなかったのだが、シャアは熟睡を貪る彼の頭を抱き寄せ、額に軽くキスをした。 「誕生日、おめでとう。カミーユ・ビダン」 |
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