Forbidden love

せつなくて、甘くて、またせつなくて、で終わる話。





2010/8/13発行 『Loop or Love?』
B6/60P/R18/\600

[シリアス度★★☆☆][甘々度★★★★][パラレル度★★★☆]
[兄貴ヘタレ度★★☆☆][ともすりゃ馬鹿ップル度★★★☆]

コピー本『あえかなエスパス』『St.パトリック★デイ!』『AQUAの休日』を
それぞれ結末部分を加筆し、それぞれ世界観はそのままに各話をリンク収録。

Written by Jun Izawa


(『あえかなエスパス』 本文サンプル)




 ティエリア・アーデがロックオン・ストラトスの決死のプロポーズに応えてから、地上での休暇をお互いの別荘(と書いて、『隠れ家』と組織は称す)で過ごすことは、二人にとって当然の習慣にあった。

 ちなみに、前文の『決死のプロポーズ』というのは、前プトレマイオスクルーのリヒテンダールが名づけた数年前に遭ったヴェーダ改ざん事件中のひと騒動である。
 名前は軽いが、実際の出来事はシビアだ。

 昔のことだ。第三世代ガンダムマイスターたちと国連軍との戦闘中、突如、ヴェーダからのバックアップが断たれてガンダムはシステムダウンした。後に分かったことだが、一連の興亡は組織内の裏切り者のせいであったが、不穏な気配を察知したスメラギの戦術予報が手配した予備オペレーティングシステムの活躍で、ガンダムは沈黙しなかった。
 だが、その中で、最後までシステムが回復しなかったガンダムヴァーチェの危機を前に、ロックオンは敵機の攻撃から文字通り愛機ごと身を投げ出して庇い、負傷した。
 その後、満足に戦うどころか利き目である右眼をやられたロックオンを戦列から外そうとするティエリアと、無理やり復帰しようとする彼との間で衝突が起きた。その際、周りの意見は総無視されたことも付け加えよう。
 身近な人物の負傷を前に、激しく動揺したティエリアの気持ちは周囲もロックオン本人さえも理解できたが、あまりにも配慮に欠けた一方的な言い方に、流石の彼もカチンと頭にきたらしい。
『ごちゃごちゃとうるせーぞ!』
『なんだと…ッ、』
『離脱命令だあ?…おまえ、何様よ?俺の家族でも医者でもねえのに、そこまでおまえに言われる筋合いはないだろうがッ!』
『了解した!ならば、私は今すぐ貴方の家族候補に名乗りをあげよう!』
『…は、はァああッ?』
 外野から見れば、売り言葉に買い言葉状態なのだが、喧嘩越しのアプローチとはいえ、長年お互いに意識していた身には抜群の促進剤となったらしい。
 正式な婚姻こそ挙げてないものの、事実上の通い婚がこの数年成り立っている。


   *     *     *

『このミッションをこなしたら、次までの三週間を二人だけで過ごす』
 ミーティング時にこそりと耳打ちされた内容を、ティエリアは素直に飲んだ。
(誰にも邪魔されない休息ほど、ありがたいものはない)
 頭にもやがかかる。周りのクルーたちが、押し問答を繰り返しているのが聞こえているのに、ちっともそれが頭に残らない。
 まるで別世界を覗いてるみたいで、ティエリアはひっそり笑んだ。
「…な、」
 その言葉を理解せずに、ただ頷く。
「……ですから、…は……、どうしますか?」
 尋ねられたら、形だけの返事をする。正直、質問の内容はうろ覚えだ。
 改ざんされたヴェーダを挟んで二つに分裂した新生ソレスタルビーイングの一柱として、またガンダムマイスターとしてティエリアが言うべきことは会議の序盤に全て語っておいた。隣席の開発部門チーフクルーに議長の座を譲り、自分はただ意見を聞くだけの存在…できれば、そのまま眠りたい。
「……う、」
(しっかりしろ)と理性とプライドが叱咤するも、完徹一週間の末ようやく目処がたった第四世代ガンダム設計の安堵と極度の疲労が、彼女の瞼を閉じさせようとしている。
 しかし、このティエリア・アーデたる者が会議中に転寝など言語道断とばかりに、彼女は組んだ両腕の内側に爪を立て、必死で眠気と戦っていた。が、その痛みすら心地よく感じる。
(連日の激務で、身も心もボロボロだ……)
「…ティエリア、」
 小声で呼ばれ、隣を振り仰ぐとロックオンの力強い腕が肘を掴んだ。
「そのまま寝ちまえ」
 そんなことできるかと言うべき気力は、もう体のどこにも無かった。
「…な、」
と、追い討ちをかける瞳の、瞳孔の緑青は地上を覆う海のように深く、優しくティエリアの体を包みこんだ。
「ん…」
 肘の辺りが温かい。痺れる瞼を降ろすと、待ちかまえてたかのように睡魔が襲ってくる。怒涛に『眠い』という欲求は果てしなく、ともすれば一生寝て過ごすのじゃないかと危惧するほどで。
 もうどうにでもなれ、ティエリアは意識を手放した。




 
(『St.パトリック★デイ!』 本文サンプル)

 クリクリコルネが無理難題言ってきたら、どうする?
「トリック・オア・トリート、ですぅ!」
 早撃ち見せてやっから。製造責任者、出て来いよ。
「ハロ、今日の日付は」
「グリニッジ標準時間、十月三十一日午後三時十五分」
「今日はハロウィンですですぅー!」
 急拵えのオバケ衣装を剥いでみたら、トレミー最年少クルーがニッコリと両手を差し出した。ちまい体を精一杯背伸びする姿は、エイミーの影がダブって切なくも愛らしい。
 額にやりかけた手を、寸でのところでドアの縁にもたれ掛ける。子供の我が侭に振り回されるのは、正直ご免だ。
「酒と煙草のストックならあるが?」
「ブーブー、ストラトスさんはノリが悪いです!」
 せっかく本場のヒトなのに!と詰め寄られるが、生憎、愛国心溢れる男でもねえ。そもそも、俺の故郷の祭とミレイナのそれとは意義と遣り方が違う。
 俺に、お嬢ちゃんから責められる謂われはない。
「俺のケルディムとセラヴィーの修復は、どうしたよ?」
 確か、スケジュール通りラグランジュ3のファクトリーからリペア機を積んだコンテナ船が到着したばかりの筈だ。
 機体の受領にイアンとスメラギさんが先行して、俺も相棒と一緒に部屋から出るところだった。
 おかしい。まだまだ子供だが仕事熱心な彼女が、大好きなモビルスーツを前にして…。
「スメラギさんが『まず本場の人にお菓子貰ってらっしゃい』と言いましたのでー」
 つまり、体よく追い出されたわけだ。
 能天気な頭痛の種に、再び額に手を当てそうになる。
「ミレイナも、パパみたいにやりたかっただけなのに…」
「ちょっと待ってくれ。パパみたいにって、前にも」
「したそーです。セイエイさんとハプティズムさんが行方不明になる前は毎年やってたとパパがそー言ってました」
 ああ、つまりは兄さんか。
 特殊な生まれの元超兵や、宗派の違う刹那が流行らせるわけもなく、まさか可愛いが堅物な教官殿が先陣切って…。
「『僕か、お風呂か、メシか、どれにす』…いやいや『トリック・オア・トリート』するわけねえし」
「ストラトスさん、妄想駄々漏れですよー?」
「やっぱ、ニールか」
「もしもーし?」
「ゴホン!とにかく、偏った知識はよくねーぞ、お嬢さん」
「そうだ。偏った知識はよくないぞ、ミレイナ」
「んー、だろ?ティ」
 声のした方へ…床だ。帰ってきたティエリアの専ら定位置たる俺のベッド下に…、ピンク色のハロはいなかった。
 否、声はミレイナの立つ方角だ。俺の私室前の通路奥。
「な…」
「おおぅ!ドッペルゲンガーですか、凝ってますぅ」
 そうか、ドッペルね。
 オカルト好きな父さんがよく脅してたな。見かけた数日後に死んじまうって怪談だ。

「ハロウィンの日に則って、復活してみた」
「俺はぁー、ティエリアに復活させられちゃった」
 気恥ずかしそうに挨拶なんかいらねえ、から。その不埒な手を退けろ。肩に回した手が回りすぎて、胸にまでいってるから。
 つか、絶対揉んでるだろ。それ。


   *     *     *

「本当に…ロックオンなのかい?」
「古代ケルト民族じゃ、一年の終わりは十月末で、三十一日の夜は死者の霊が家族を訪ねたり、魔女や精霊が出てくると信じられていたんだ」
「…ほほぉ…」
「………日本の『ボン・シーズン』と同じだな」
「アイルランド伝承の精霊にゃ、悪霊が多いよなあ」
「急に思いついたので、完全なボディが準備できなかったんだ。仕方なく、彼にはヴェーダが廃棄保管していたイノベイドに入ってもらった」
「それで奴らから身を守る為に仮面を被り、魔除けの焚き火を焚いてた。元々あったドルイド信仰のサウィン祭の神事の一つさ」
「ねえ、ティエリア!」
「ハイハーイ、質問です!アーデさんのお耳、ソレは仮装ですかー?」
「実装だ」
「…僕の質問には答えないんだね……」
「ニール・ディランディか、本当に?」
「おうよ!」
「君は純粋種だろう。彼が彼でなくて何に見えるんだ?」
「刹那には答えるんだ!ひどいよ、ティエリア」
「哀れむな、アレルヤ。俺も結構無視されてんだ」
「ワシはお前さんの話を優先させてるぞー、ロックオン。…とと、ロックオンが二人じゃ、ややこしいな。こりゃ」
「案ずるな、イアン。ロックオンは常に一人だ」
 それはつまり…。
「ライル。ヴェーダより、君の退艦許可が下りた」
 『もう一人前だから』と晴れやかな研修終了を告げる教官のように、ティエリア・アーデを名のる猫耳生やしたふざけた格好の小娘は俺に最後通牒を…。
「…殴らせろ、ニール」
「俺かよ?!」
「俺はロックオンの意見に賛成だ、ロックオン」
「僕の分も頼むよ、ロックオン」
「相乗りすんな?!」
「まあまあ、兄弟喧嘩止める気はワシにはないが。事の顛末聞いてから、じっくりやれや」
 キイキイと椅子を鳴らして、最年長は大人の意見で周りを黙らせた。

(中略)

「…以上、ウィキペディアから参照ですぅ」
「ありがとう、ミレイナ。つまりは、それだ」
 膝上のハロから端末モジュールを引き戻し、ミレイナはにっこりと俺の説明をぶった切った。
「…俺の…大学時代の研究成果を返しやがれ…」
「…よく意味がわからない。もう一度説明してくれ…ティエリアが」
 困惑を絵に描いた八の字眉で首をかしげる刹那に、俺も気持ちは同じだ。隣のアレルヤもコクコク頷いている。
「詳しい説明は揃ってからしようと…」
「ミス・スメラギなら、お前らの顔見た途端にすっ転んだろう。今頃、脳震盪でフェルトが診ているぞ」
 三人の視線がひと揃えにイアンへ向き、それからベッド上で正座するゾンビもどき二名を白い目で見やった。モジモジと恥かしそうに膝を掻く子猫は可愛いらしいが、兄さんの方は居た堪れないらしく、顔をそっと壁へ向けた。
 無論、二人をくっ付けてると公然猥褻なことやらかしそうなので、防波堤にミレイナを間に座らせている。
 入口に向かって、兄さん、ハロを抱えたミレイナ、ティエリアが俺のベッドに座り、その正面に俺が、ドア傍に刹那とアレルヤが立っている。年寄りを気遣い、イアンには唯一の椅子を譲っている。
 正直、一部屋に七人はかなり息苦しい。
「ブリッジは、ラッセとマリーさんに頼んである」
 言外に「揃えるだけの駒は揃ったんだ」とティエリアの退路を絶っている。年の功だねえ、おやっさん。
「まあ、そうこいつを苛めてくれるな、おやっさん」
 ミレイナの頭越しにティエリアの髪を撫でる手つきは甲斐甲斐しい保護者風情だが、みつめる刹那の死んだ眼差しが俺の知らない時間の中の二人を教えてくれた。
「つまり、スピリチュアルな交流に物足りなかったこいつが、俺にもう一回チャンスをくれたってことなんだ」
 オーケイ、刹那。理解したさ、バカップルて事は。
「カノジョの欲求不満を笠に着て、つまりはなんだ、ヤリ足りないのはアンタの方だろ、ニール」
「欲…もしかして、アーデさん寂しかったですか?」
「ウォッホン!」
「ミ、ミミミレイナナ、こっちに来てくれないか?ブリッジのマリーと勤務交代しなきゃ!」
「アンタは直球すぎる、ライル・ディランディ」
 眉間に皺寄せた刹那、の後ろをそそくさとお嬢ちゃん追いやるアレルヤ、何故に俺を睨みつける。
「悪いのは、こいつらの方だろーが!」
「君はもう少し、デリケートという言葉を学んだ方がいい」
「お前にだけは言われたかねーぞ、猫耳生やした教官よぉ」
「まあ、まあ、」
 本筋から脱線しまくった現状にガクリと項垂れる俺の頭上を小さな物体が飛んでいった。ハロじゃない。
「トリック・オア・トリート、だ。ミレイナ」
 中指ヒラヒラさせて呼び止めた兄さんは、ジャケットの内側から小さなキャンディーを宙に零していった。菫色の目が顔からこぼれそうなほど見開き、掌の飴玉を凝視すると、彼女はニマッと顔を綻ばせて喜んだ。
「これ、ミレイナのやりたかったハロウィンですぅ!」




(『AQUAの休日』 本文サンプル)
 *『ARIA』パロ。この話だけ、ティエリアは女装男子です。(他2話は女性)



 白壁の建物の上空をホバリングして、俺は百近い窓を眺め、ティエリアからの合図を待つ。
 大所帯の姫屋の寮の、どこかの部屋にティエリアは居る。どの窓もぴったりと閉じられ、カーテンが閉められている。
 何日かに一回、ティエリアは部屋換えを強制されるせいで、どこに居るか外からは皆目検討がつかない。
 俺を煙たがる親の仕込みとはいえ、随分な嫌われようだ。
 まあ、地球育ちというのもあるだろうし、俺が男だということもあるだろう。
「ニール、ニール」
 ハロが窓の動きを察知したらしい。カパリと空いた耳からマニュピレーターが飛び出し、開き始めた窓の方角を指差す。実に、よくできたナビだ。
「おりこうさんだ、ハロ」
 ガタガタと開いた窓辺にかかった白い手が目に眩しい。ベランダに掛かるプランターを室内に入れるティエリアは帰ってきたばかりか、まだ仕事服のままだった。
 純白に真紅のラインを引いたセーラー服とちょこんと頭に半円状の帽子がのったスタイルは姫屋ブランドで、足元には真紅のハイヒールがなんとも魅惑的に飾られている。
 波に揺れるゴンドラ上という不安定な所に高いヒールで挑むウンディーネは、姫屋だけだ。それは無謀であり、一方でそれだけ優れたバランス感覚と高い技術を持つ漕ぎ手揃いだと外へアピールすることができる。
 俺としちゃ、ヒールを履いた踵が上がって、弓なりに反るアキレス腱のところに思いっきりキスの刻印を刻んでやりたいところだ。
「…が、他の男に見られるのも癪だな」
 ティエリアが窓辺のプランターを全部片付けたのを見届け、エアバイクの機首を下へ向ける。排気音に気付いた真紅の瞳が空を見上げ、俺と目が合う。ふわりと和らいだ顔が、なによりも今日の疲れを癒してくれる。
「おかえり、ティエリア」
「ただいま、ニール。ニールも、おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
 荷物を受け取ろうとするティエリアの両手をすり抜け、俺はまず再会一番にやりたかったことを狙った。
 野暮なこというなよ。
 恋人への挨拶といや、キスだろ。キス。
 ま、キスにもよりけりってね。そっと唇を掠めるキスをして、ギョッと手を止めたティエリアの鼻の頭にもキスをして、おまけだから、額と頭の天辺にもチューしてやった。
「ニニ、ニール!」
 真っ赤な顔で俺の唇を押さえる手の平には、舌を這わせた。ら、案の定、物凄い顔で睨まれた。
「おっと、濃厚なやつをご所望かい?」
「外でなんて、破廉恥です!」
 とうとう癇癪起こして、手近にあったクッションを掴んでくるんだから、本当に俺の恋人は初で可愛い。
「この、笑うなっ」
 ぶつけてくる物を避けたら、デュナメスのハンドルにでも当ったか、バフォッと羽毛が宙に飛んだ。ますます愉快な気分は収まらなくなって、ティエリアの頭越しに荷物を部屋へ放り投げると、未熟な肢体のウンディーネを抱え上げて飛び込んだ。
「ひあッ!」
 なんとも艶やかしい悲鳴に唇がつり上がる。
「今度の部屋は、サーモンピンクのカーテンに、…なんとも仰々しい天蓋付きベッドかよ」
 お姫様仕様だな、なんてからかうと意趣返しにガリッと耳朶を齧られた。
「痛いぞ、おい」
「僕が味わった恥かしさを、痛みで表現しました」
 うんざりした声で紫紺の髪を掻き上げるティエリアは、まだ己の立場がわかってない。恋人といちゃいちゃしてもいいという立場を。線を引くな、線を。
「俺としちゃ、気持ちいいことでのご返答を希望」
「貴方、は、おろかっだ!」
 放り投げた瞬間に喋るもんだから、舌噛みやしないか冷や冷やしたが、効きすぎるベッドのスプリングに細い肢体がバウンドして仰け反る様はエロチックでした。
 しかも、セーラー服がベースのウンディーネの制服は動きやすいように太腿深くスリットがあって、ティエリアの背中がしなった瞬間、白い裾からこれまた白いおみ足がご登場してくれちゃって、これはもう俺に興奮してくれ、抱いてくれと言っているようなものですよ、ティエリアさんの太腿たちが。
「うん、ごめんな。ひとまず飯はお預けで、おまえを喰わせろ」
「な、意味分かりませ…ッ、…へにゃあッ!」
 ティエリアをうつ伏せにした俺も、誰と誰に謝っているか自覚がない。
 ともかく、こういう我を通す時は先行謝るのが一番、後でいい訳が立つと地球で仕事の先輩から教わったことを実践しただけだ。実際のところ、反省してない。
 食ってから喰うか、喰うた後で食うかの差異は些細だ。
 シーツを掴むティエリアの手に上から重ねて、ほんの少し俺の方が大きい指で白い指の股をねっとりとなぞる。股の下のゴツゴツした肉刺を柔らかく慰撫する。
「あ、…あッ、あぅ…」
 一日中オールを漕いでいたんだろう。体温の低いティエリアの体で唯一手はニールよりも温かい。それが、ニールの愛撫でジワリと汗ばんできた。
 ティエリアはどこも敏感だが、職業柄手が最も感じやすい。ので、本音を言えば、誰とも握手はしてほしくない。
 なんというか、擬似セックスぽく考えてしまう。
 …わかってる、そこまで思考がいっちゃあ変態だって、俺もわかってる。踏みとどまってる。でも、あんな美人に心が狭くなるのもわかってくれ!
「制服、皺になる。…脱がせていい?」
 ティエリアの背中に顎を乗せて、純白のルーフを腰からうなじまで撫で上げる。首筋に漂っている透明な汗は塩分が美味くて、何度も舐めてしまう。
「あ、やめて…舐めるの、駄目」
「なんで?勿体無い」
 日頃の練習のせいか、白く見える肌もゼロ距離から見ればうっすらと日焼けしている。
 俺が塗った唾液のエナメルとベッドサイドのランプで、ティエリアの細い首はテラテラと蜂蜜を塗ったチキンのように照りつく。ところどころに甘噛みした印の名残を見つけ、ニンマリと唇が緩むのを止められない。
「ニ、…ル」
 悪戯な手つきが止んだのを不審がったか、首を捻じ曲げて戸惑いがちに振り向く。少し怯えた顔が綺麗だ、なんて頭の隅で浮かんだ瞬間に、口付けを交わしていた。
「明日からのお休み全部、俺にちょうだい?」
 呟いて、返事を待たずに唾液を送りこむと、ピンクの口紅が溶けて、桜色の唇が現れる。
「ん…、うぅ…ん、」
 喉を透明な液が伝い降り、染みにならないうちにとティエリアの制服を肌蹴だす。
 キスは濃厚、お触りは序の口だ。軽いセックスの序盤から頭が霞んでそうなティエリアの飛び具合には心配だが、これからの休暇を思うと教えがいがあるというもんだ。
「ひぁ、あ、ああぁ…ん、…ゃぁ」
 スリットから差し込んだ指でゼラチン質の丘をかけ登る。丘の内側のホクロを爪で強く掻くと、ティエリアは猫なで声をあげた。腰がうねって、愉悦の波を俺に教えてくれる。
「参ったな…。もう、我慢きかない?」
 なんて、苦笑を熱い吐息と一緒にティエリアの耳の穴に捻じ込んだ。滑った舌に肩をすくめたのを幸いに、袖から手を抜き、腰から上を裸に剥いた。
「ニール…、も、だめっ、…く、くるから、」
「もう?」
 ぶるぶると震える手が俺の頬に更なる快楽を強請る。その手を掴んで、薬指に軽く犬歯を立てる。
 上目で紅い目を伺うと、縁にびっしりと涙を堰きとめ怖がっているようにも見え、不埒な続きを期待しているようにも見える。
「…ティエリア、足上げるから、こっちを向きな」
 太腿を悠々と片手で持ち上げ、スリットの奥でいやらしく待ち構えていた昂りに爪で掻く。とたんに仰け反った背中のアーチは、ネオ・ヴェネツィア中のどんな橋よりも魅力的な曲線だった。
「…にしても、おまえ、黒のボクサーショーツだと、白い制服に透けて見えないか?」
「んん…、そ、なことよりッ!」
「オーケー、お小言は後回しだ。んじゃ、能書きなしで喰わせてやんよ…!」




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