Forbidden love

せつなくて、甘くて、でオチがアレな終わる話。





2010/10/10発行 『いつか、楽園で 会いましょう』
A5コピー/22P/R18/\200

[シリアス度★★★☆][甘々度★★★★][パラレル度★★★☆]
[ニール→ティエ度★★★☆][ともすりゃ馬鹿ップル度★★★★]

劇場版&がゆん漫画『楽園TV』を下地に短編3話収録。
うち最終話は(ある意味)打ち上げネタ。
Written by Jun Izawa


(『花が芽吹くのに理由はない』 本文サンプル)


「…なんか言ってあげないんすか?」

 闇から翻し、嬉しげに駆けていく幼い背中を見送る俺らの輪の内側から、おせっかいな声が上がる。
 誰が、誰に、誰へ、
 何を。

 そんなことは、器を失う以前から、悟れていた。それなりに機微には鋭いつもりだった。…それでも、俺は明るい青年の半分が機械だったと気付けてやれなかった。
 目に見える軽薄さに、人に近づきたくとも近づけないヤマアラシのジレンマがあるなど、…俺は知らなかった。
 たぶん、今なら、光あるあの世界に届くと、俺たちは知ってる。
 けれど、それは…それには…俺達には…
「いいんだ」
 俺とよく似た悲しい過去を持ち、苦しみながら、それでも血に手を染めずに俺とは違う道のりで世界の敵ソレスタルビーイングへ入ってしまった青年。
 その傍らで、これも組織に似つかわしくない女性が困ったように眉を下げている。その手が青年の服を背中からギュッと握っているのが上から見えて、…空っぽの胸がほんのりと熱を持つ。
 ああ、…は、いつだって傍にいる。こんな暗闇でも。
 俺が、俺たちがヒトである限り。
 だから、ティエリア…

「俺が心配しても、あいつは茨を裸足で走るのをやめないだろうから」
 俺は、その先で腕を広げてるさ。

「…気が長いことね」
「クリス、言い過ぎ!」
 呆れたようにクリスが零す。それを困ったような笑みでリヒティが俺へフォローをかける。
「いいんだよ。ティエリアは死んだんだから」
「ロッ…!」
「……死んじまったんだから、もう心配するこたぁないんだ。…あいつは、いずれ俺んとこに戻るんだから、イノベイドの使命とか計画とかにあいつがズルズル巻き込まれてるのを、見守ってるさ」
「……」
「…まあ、…まさかの自爆なんざやっちまった以上、お尻百叩きぐらいの仕置きは覚悟してもらわねえと、こっちの心臓が持ちゃしねえぞ」
「プッ…」
「ロックオンらしいお仕置きッスね」
「ティエリアかわいそー」
「いいの。…あいつは俺んのだから」
 ほらほら帰るぞー、と二人の肩を叩いて、一人お先に光の出口から踵を返す。

 がんばれよ。
 …とは言えない。

 もう十分だ。甘い枷は、あいつを苦しめるだけだ。

 体中に剣が突き刺す以上の激痛を味わいながら、それでもティエリアは笑った。笑ったんだ。自分の使命を尽くす為と、俺の願いを穿き違えて。

 もういい、もういいんだ!
 そう叫びたかった。

 お前がそこまで守らなくても、ヒトがそこまでの運命だったんなら、俺はそれでいい。お前は十分戦った。尽くした。最高のイノベイドだ。最高のガンダムマイスターだ。誰よりも優しい、人間だよ。
 だからもう。
 ここへ、帰っておいで。

 おまえが傷つくのは、もう見たくないんだ。


 けれど、あいつは、ティエリアは

 刹那を、生かした。

 ライルを、アレルヤを、みんなを庇って、

「あっちは、生きている奴らで足掻いて、未来を掴んでもらわねーとな」
 背中に刺さる温かい光を、渋る二人の頭を撫でて宥めながら、俺は、俺達は俺たちの世界へと戻っていく。

 死者に、未来を変える手がないのを知っているからこそ、
 おまえは、おまえの存在の反則さを逆手にとって、

 ライルを、アレルヤを、みんなを、刹那を生かす為に。

 ティエリア、
 …おまえさんは、どうしようもないおせっかい野郎だ。


 
(『 HELLO 』 本文サンプル)

 貴方は、HELLOと笑って俺を見た。
 私はYESと言いそうになって、慌ててそこから逃げ出した。
 おかしな話。

「ん…」
 不意に目が開いた。天井をぼんやりと見つめ、半分夢心地に朝日が肌を暖めてくれるのを感じる。
(気持ちいい…)
 やわらかな瞳に四角い海が映る。風が、椰子の葉ずれと波音を足元に運んでくる。目を閉じると、そっと音が全身を覆う。
 まるで海の中で眠るよう、心地良い眩暈を感じる。
 もそもそと寝返りをうって、ピローに顔を埋める。焼きたてのパンのようなふかふかした感触を頬擦りしては何度も確かめる。羽毛がやわらかに頬に当たる感触に、今日もまた幸せな一日が過ごせそうだとふんわり微笑む。
(さわれるのが、こんなに幸せなことと…は……)
 いつから、この感触が好きになったのだろう。
 頬を撫でる感触が気持ちいいと思い始めたのは……。
(もう、すこ…し…)
 ……沖から大きな波が砂浜を飲み、白い泡を連れまた沖へと引いた。海からの陽射しに空の星が消えつつある。早起きな誰かが散歩をしているのか、声が微かに聞こえる。
 それよりも僅かに大きく、砂を踏む音がする。キャンプか、他のバンガローの客だろう。
 ザッザ、ザリザリ。
 海水で濡れた砂浜を散歩する足音は、この前に近づいて…通り過ぎた。せわしなく海を震わす波のように。
(…ちょっと…だけ……)
 ティエリア・アーデは、まどろみの淵から昏睡の海へ躊躇わず身を沈ませた。スー、スーと軽い寝息を立てるバンガローの前を、先ほどの足音が引き返してくる。
 しかし、それは太陽が全ての星を飲み込んでなお、しばらく刻が経ってからの。

 あれやこれや考えても、音の一つぐらいしなければ始まらない。嘘つきなまま終わってしまう。
 ドアを開けるなら…………開けたいなら…。



(『仮想ビーチで無礼講プレイ の巻』 本文サンプル)


「行くぞ、刹那」
「ああ…」
「「人類の存亡を賭けた、対話の始まり…!」」
 仲良く遊んでいってらっしゃいと手を振る大人三人の真ん中、薄紫の髪の美女がうっすらと笑みを浮かべる。
「うふふ…」
 一オクターブ上がった微笑に、兄弟はなぜかゾッとした。
「これで、イオリア計画はリボンズでもリジェネでも、ティエリア・アーデでもなく…、このアニュー・リターナーが…」
「黒ッ!」
「え?え?えええっ?!ちょ、どこまでがジョーク?ジョークなの、天然なの、黒いの?!」
 恋人の黒化に引く弟に、林と脇の彼女を交互に見ては右往左往する兄。どちらも五十歩百歩だ。
「やべえぞ。ライル、ちょっとティエリアんとこに援護、行ってくるわ。飯、頼むな」
「てめえ、俺に引き継げってか?!飯の準備、全部丸投げかよ!つか、援護って、蚊相手にか!」
「ロックオン・ストラトス、精密射撃で蚊を狙い打つ!」
「両手で十分だよ!」
 ニールは哀愁漂う影を横顔にかけて、弟へと振り替えった。ニヒルな口元に何故か、哀しみが宿っている。
「結局、俺は破壊しかできない男だ…」
「蚊ぐらいで暗くなるな!きめえよ!」



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