Forbidden love |
引き出したコードが巻き戻らないように押さえつつ、イアンはもう一方の掌を背後にひらひら差し出した。 「サージカルテープと予備ケーブル3本」 軽い溜め息が「何メートルですか?」と訊ねる。遮蔽制御ユニットに首を突っ込んだまま、後ろを振り返らずにイアンはニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。 「コンマ5と1コンマ25、あとは…そうだな7メートルもありゃいいか」 「うわ、長ッ!」 予想どおりの反応が返り、イアンはフフンと得意げに鼻を鳴らした。「ユニットの中で余るんじゃないかと思ってるだろう?」これがそうじゃないんだなあーと、ユニット内部から後方の助手を見上げ、高らかに舌を鳴らす。 「戦闘中の修理は緊急を要する。工具はともかく、部品を一々集める暇なんてないからな。こうして、各部に『余り』を作っておくんだよ」 負荷が掛かり過ぎたか、表面の防磁コーティングが禿げたケーブルへサージカルテープをぐるぐると巻きつけながら、イアンはブロック遮蔽装置のネジを締めた。ユニット壁面に予備ケーブルを軽く貼り付ける。念の為にとケーブル両端をレーザーでユニットカバーに溶接する彼の姿を背後の青年は「用心深いんですね」呆れたように見守った。 「おうよ。こちとら、世界に喧嘩売っているんだ」 「……あ、ああ、そうです、よ…ね」 「……お前さん、本当に真っ当な、ただの宇宙技師2種免なんだなあ」 ハアッとイアンはわざとらしい溜め息を吐いて、整備士の腕がもったいないと心中で嘆いた。この青年は根っから素直で真面目過ぎだ。身についた技にもそれがみてとれた。経験不足とはいえ、応用力がてんで無いのだ。 「だから、僕はカタロンでも軍関係者でもなんでもないんですってば!」 「ああ、ああ、分っちゃいるさ」 「判っていない方は、貴方だ。イアン・ヴァスティ」 「え…」「げっ、」 振って沸いた張りのいい美声に、イアンは慌ててユニットから首を抜いた。目を丸くして後ろを振り仰ぐ青年の視線を辿り、ドア口でこちらを睨む人物を見つけ、内心「あちゃあ」と額を叩いた。彼の動揺を肌で感じたか、紫紺の眉がますます吊り上がる。 「イアン・ヴァスティ、これはどういうことだ?」 「よお、ティエリア」 「挨拶はいい。これはどういうことだと訊いている」 『これ』と指差す方向では、刹那が保護した青年が…イアンの記憶が正しければ、サジ・クロスロードが目を瞠り体を凍らせていた。チッと舌打ちを鳴らし、イアンは彼を庇う向きへと体を起こした。ティエリアの類稀なる美貌に見惚れて動けないならば、可愛げあるとからかいようもあるが、かつてと同じに向ける彼の冷徹な視線は毒でしかない。 「独房から勝手に出すとは、どういうことだ」 詰問調の口ぶりに怒りを覚えるどころか、(懐かしい)と感傷に浸りそうな心地にイアンは驚く。4年の年月に薄れかけるが、当時の彼は、そう、まさに孤高の俺様だった。「それ、女物じゃないか?」と目を疑ったピンクのカーデガンは、あの気質を和らげる緩衝材だったんだなあ…と、イアンは一分の隙も見せない紫の制服をしなやかなラインで着こなすティエリアの全身をジロジロと見回した。 「どうもこうも…腕が立つってんで、手伝ってもらっているんだが?」 「独房から出したのは誰だ?」 「俺だ」 「…ミレイナもですね。全く…」 「おい、俺だと言ってるだろう!」 「貴方だけで彼を連れ出したならば、まず始めにとぼけるはずです。統計上、貴方は他人のミスをよく庇い、己のミスははぐらかす」 「よく見てやがるじゃねえか…」 瞬き一つで「それはどうも」と返したつもりか。ティエリアの整いすぎた容貌は一見だけでは物分り辛いが、視線の一つ一つを拾えば言外に訴えるものを現していた。『見目に騙されるな』とは、対ティエリア戦への言葉だとイアンは思う。その昔、酒の肴にロックオンから教わった言葉であったはずだ。 「サジ・クロスロード」 ティエリアの視線がニードルのように、イアンの背後を突いた。 「刹那は君を信用しているが、俺は君を疑っている。君がガンダムを憎む動機は理解したが、作戦行動の邪魔はするな。その時は俺が君を排除する」 「ティエリア!」 イアンは利き腕を上げ、後ろの青年を庇った。整備士の腕は命と同等だ。これで、ティエリアも迂闊に銃を上げることもないだろうと企む。 (まあ、昔のあいつなら、ドアを開けた時点で警告なしに発砲してやがっただろうなあ…丸くなっちまいやがって) 随分と可愛い性格になったとイアンは彼の変化へ目を細める。声こそ固いが。 「おい、言い過ぎだぞ」 「ソレスタルビーイングは、世間から舐められてはいけない」 角が丸くなったと思えば、まだまだ四角四面のようだ。しかし、埒の明かないやり取りは不毛だと、話題を変えた者はイアンではなく、ティエリアの方だった。 「まあいい、潜航中の今は逃げ場は無いのだし…」 肩をすくめ、この場では不問にするつもりのティエリアに、イアンはゴクリと喉を鳴らした。格別の恩赦は、逆に不気味でならない。 「イアン・ヴァスティ。彼の監視を怠りなく、責任もって遂行するように。…願います」 (ほんとうに、ティエリアはよくよく変わったもんだな…なあ、おい) 「ああ、わかってるよ」 快諾したとニッと笑えば、少しだけ口元を綻ばした。些かぎこちないが、昔に比べれば格段の進歩だ。 「ミスター・クロスロード、おかしな行動をしないように」 …他人に容赦ないのは、昔と変わらないのだけれど。 「ところで、貴方の後ろ…カバーを外した箇所は、ブロック遮蔽装置の制御ユニットですか?」 「ああ、そうだが?」 「そうだが…と軽く言いますが、貴方、」 眉間を顰めるティエリアが小言を言い出す前に、イアンは慌てて両手を振った。 「違う、違う!ブロックシャッターは壊れちゃいないぞ!」 「まだ言っていません」 「怒るつもりだったろう!こいつぁ、改良してたところだ」 「改良…」 「ああ、シャッターの遮蔽速度を普段より速くしていたんだ」 「プトレマイオス2に、浸水でもありましたか?」 麗しの眉間がますます皺寄って、イアンは(なんだって、こいつは勘が回って、回って、回りすぎるんだ…)と嘆きたくなる。 「遭っちゃ困るから、シャッタースピードを上げているんだろ…」 「それは助かります」 かなりの深度を潜航している今、艦にかかる水圧はとんでもない値を示している。下手に浸水していれば、今頃ペシャンコだということを、宇宙育ちの彼は気付いていない。理論は判るが、実感がないのだろう。 意外と天然発言をしがちな彼は、まだまだ人生経験が不足しているらしい。 (心底尊敬申し上げるよ、お前さん) 彼との複雑怪奇なコミュニケートを難なく交わしていたかつての戦友を、イアンは本当に惜しいと感じた。 「…それで、お前さんはどうしてここに来たんだ?」 元から、独房にいない彼を捜索していたようには見えなかったが。たまたま遭遇したにしても、相手がティエリアとは…仕事場でカタロンに間違えられたといい、サジという青年はつくづく運がないようだ。 「…パイロットスーツへ着替えに」 言葉を濁したが、部外者の手前でだろう。本命は、通路の先にあるモビルスーツ収容コンテナ、セラヴィーの調整に違いない。私室にも、予備スーツはあるのだから。 「この深度なら、見つけたところで奴さんもうかうか手を出せんだろう?」 「隙を見せて、甘えさせてくれる相手じゃない」 自らの判断で、待機状態をバトルフェイズへ移行したらしい。チラチラと通路の先へ視線を投げるティエリアの焦りようには用心深いと呆れもするが、サジの為にも藪を突くわけにもいかない。 「運がないなー」 「セラヴィーのハンガー前で整備する貴方が悪い」 「もっともだ」 「イアン」 「なんだ」 「彼にも耐久スーツを。宇宙でなくとも、空気の無いところはある」 「ああ、わかった!」 「自分の目で世界を見直す前に、安易に死なれるのは…」 「え」 「卑怯だ」 言いたいことを言い切ったとばかりにすぐさま立ち去る少年の姿をサジは呆然と見送るしかなかった。「ま、気にするな」と肩を叩いたイアンは、平然とユニットの修理工程へ戻ってしまった。 嘘も方便だ。ティエリアには「改良」と嘯いたが、カバーを開けて中のケーブルが幾らか断線していたのを見つけた時は焦りもしたし、どこかの神様に感謝したものだ。 本当に、アレルヤ救出後に追ってきたアロウズの潜水艇がうすのろで助かった。 「あの子は…」 「あー?」 (あの『子』って、誰だ?) イアンは首を傾げ、数秒後に今立ち去った仲間のことを差しているのだと気付いた。 「確か、刹那はティエリア…、えっと、あー…」 「『アーデ』だ。『ティエリア・アーデ』 ………惚れるなよ?」 「ええッ?!じゃなくて、」 4年前…それ以前からもずっと変わらぬ幼い美しさを外見に保ってはいるが、おそらく齢は刹那より一つ二つ上ぐらいなはずだ。 「じゃなくて?」 盛大に慌てふためる青年の純情ぶりは見ていて爽快だなと、年甲斐ない意地悪さをイアンに沸かせた。リヒティとは良い対称だ。 「って、だから、あの子、男の子じゃないですか」 「あ、あー、まあなあぁ…あー」 え、違うんですか?と目を丸くさせる純情青年の顔をジッと見つめ、イアンはそこに男特有の喜色がないことを確かめながら、嘘もとぼけようも難問だと眉をしかめた。 正直、ティエリア・アーデの性別を「正確に」知る者はプトレマイオス2の搭乗者には居ないだろう。はっきりと確認した人物は過去2名いたが、両名とも4年前の殲滅戦で鬼籍に入っている。 大破したナドレのコックピットで瀕死状態のティエリアを救出したのは、強襲コンテナにいた唯一の男手だったイアンではあるが、パイロットスーツを剥き応急処置したのはスメラギ女史だ。そこでちょっとしたトラブルがあったのだが、その時点で見知った彼の性別は………なのだが………今は………で、………イアンは生命の神秘などと安易な言葉へ思考を逃避しそうになったこともあった。戦友モレノ医師の死を悔やんだところで、秘密主義な医者のカルテは手元に戻らない。 「まあ、コナかけても無駄だしな」 「へえ、恋人…そりゃいるでしょうね」 あんなに綺麗なら。 そう呟いたサジの目元は柔らかな喋りを裏切って、酷く暗いものだった。それを見過ごすほどイアンは、彼に甘くない。ただ、コンテナに辿り着いた直後に出くわした刹那とのやり取りで、ガンダムマイスターを仇と憎んでいるだけは理解していた。 「美人の彼女かあ…やっぱり美人なのかな」 (いや、筋肉質の優男) とは言えないイアンは「あーまあなあ」と曖昧にしか言えなかった。虚実言ったところで、サジが彼と出会うことはない。 「で、ティエリアがどうした?」 イアンは、早々に話を切り替えた。ソレスタルビーイングの最高機密っぽい雰囲気のティエリアに関して、己の知ることはごく僅かであるし、部外者のサジへ教える道理はない。知れば、この純情青年は益々居場所を縮めて生きていくしかないのだ。 (そこそこに、はぐらかすか) 「え、ああ…彼は、なんていうか…ここで戦うようなひとじゃないように感じられて…て、いうか、…え、なんでそこで笑うんですか?」 「や……いや、や、すまん、度胸あるなあ、お前さん」 声こそ出さないが腹を抱えてピクピクと痙攣する様は、無音の爆笑だ。ムッとするサジを見上げ、イアンは(物知らない奴はこれだから怖い)と嘲った。 4年前も、今も、ティエリアほどソレスタルビーイングの根幹を具象す存在をイアンは知らない。 「どうしてだ?」 「は?」 「ティエリアほどじゃないが、美人なクルーは他にもいるぞ。あいつはひょろっとしちゃいるが、お前さんなぞ瞬殺だし、なによりガンダムマイスターだ」 イアンは、知りたくなった。彼から「作戦の邪魔をすれば、君を排除する」と脅されたのはつい先ほどだ。4年前の冷徹さを思い起こすほどの冷酷な言葉を投げつけたティエリアを、サジは戦うひと…いわば『戦士』と認めなかった。 イアンの知らない世界の側面が眼前の青年だというなら、あの目に映るティエリアを知りたくなった。 彼は、ティエリアが来る前にイアンが話した『ここにいる者たちが持つ暗いもの』を示して、そのどれにもティエリアは当てはまりそうにみえて、だが、少しずれているように見えると語った。 「戦場の最前線へ送られた者」 「軍に体を改造された者」 「家族をテロで失った者」 「ゲリラに仕立て上げられた者」 イアンは嘘を語ってはいないが、彼にどれが誰とは伝えていない。サジがその枠にティエリアを当てはめようとしたことに驚くが、何より彼の感じたズレがどうにも気になった。 「なんだ、そのズレってのは?」 「よくは判りませんが、僕から見て…あの人…世界を憎んでいないような気がしたんです」 「お前さんには、そう見えるか。…だがな、憎まずとも戦うことはできる」 「傭兵、ですか?」 「それもあるが、まず、あいつがそんな下衆じゃないことは…」 わかっていると、サジは頷いた。あのひたすらに赤い目は、そんな人間くさい感情を映していやしなかった。無機質な、いわばルビーを義眼に使ったような硬くなさがあった。 「それに、戦う理由がなくては、自分を危険に晒すはずがない」 そうなのか? …イアンはサジの否定に頷くことはできなかった。 昔のティエリア、…まだヴェーダと高次アクセスができた頃のティエリア本人に理由はなかった。イオリアの計画…よりも、純粋にヴェーダを心酔し、任務を遂行していったティエリアはガンダムマイスターの中で一人、『裏切り』の言葉を知ることはなかった筈だった。だからこその『トライアルシステム』。だから、あの子だけの『ナドレ』だった。 結果的、ヴェーダの方がティエリアを裏切った…ハッキングされたコンピューターが一方的に彼を拒絶するよう書き換えられたのだが……これも『イオリアの計画のうち』ならば、矛盾することがあった。 最後までヴェーダを裏切らなかったティエリアだったが、彼が始めから裏切る可能性だってあったに違いない。そのIFへの対処が甘いように感じられた。はなから裏切らない前提で、ナドレのガンダムマイスターは彼に決められていたとでもいうのか?そんな曖昧さに望みを賭けるのは人間だけだ。だが、マイスター決定の権限は量子コンピューター『ヴェーダ』の役割だ。 それに、ハッキングされはしたが、ガンダムの運用は途中まで継続できていた。敵に泳がされていたと云えるかもしれないが、脅威的な破壊力を持つガンダムは許しておきながら、先じてティエリア個人のリンクを拒絶した。 敵にとって、永久エネルギー機関のGNドライブよりも、ティエリアの方が脅威だといわんばかりな、攻撃措置だ。それとも、ティエリア自身にヴェーダのハッキング内容を知られるを、ただ恐れてか?だが、ヴェーダへのアクセス権限は厳密な制限階級を設けられている。 「あいつの理由ね。…そりゃ、あいつ自身の口から聞くしかないが」 熟考するイアンの頭上にフヨフヨと幾何学模様の影がかかり、反射で彼は顔を上げた。色とりどりのハロを搭載したカレルたちがコンテナの方へと向かっていた。ティエリアが呼んだのだろうか、そういえば、彼はセラヴィーを調整するとも言っていた。 愛嬌ある球型のAIロボットたちは簡易な手足しか持っておらず、精巧な動きは取れない。だから、イアンらと整備する際は2本のマニュピレーターを持つ作業ツール『カレル』に載る。 (おい…、) イアンの脳に一つ、閃くものが生まれた。呆然と開いた口から零れる掠れ声が、彼を呼んだ。 (ロック…オン、お前は…まさか) 常にハロを抱えていた。彼は、ロックオン・ストラトスはいつも身近にハロを置いていた。 (ロックオン・ストラトス。お前さんが辿り着いたロジックってのは…つまり……) 気付きかけた答えの道を…イアンは首を振り、見逃した。ティエリア自身が隠しておきたいと願っているのだろう今、明かすその日まで待てばいい。それまでは……ロックオンの厚意が唯一辿り着いたと、彼は錯覚しておくことにした。真実を遠ざけても、計画に支障はないはずだ。 あまりにも憐れすぎる。彼も、彼も、彼らが築いた絆も、……も。 「…やめとけ」 「はあ?」 「これ以上詮索するなら、お前さんの前には理不尽な未来しかない」 「それはどういう…」 「…あいつのことを知るのも、刹那や俺のことを知るのも一緒さ。存在自体が機密だ。深入りすれば、お前さんを引き摺りこまなきゃならん」 「そんな…ッ、いいや、僕は絶対」 「なら、サジ・クロスロードは世界に殺されるな」 しかも、2回だ。 「2回?」 「ああ、確実に、2回だ」 思考の果てに暗雲を見つけてしまった。それでも、手足はしっかりと仕事を果たしたようで、ブロック遮蔽シャッターの速度は通常よりも3割増しになった。これで万一でも完全浸水は防げるだろう。 - omake ? - 「あの、2回死ぬ…てのは?」 ああと、イアンは又ひとの悪い笑みを浮かべて、利き手の指を一本サジへと向けた。 「仲間の俺たちでさえ、知り得た情報の少ない奴なんだぞ?万一、お前さんがティエリアに気を許されてもしろ…地球連邦やアロウズは喜び勇んで捕らえに来るぞ」 「お前さんをカタロンか俺たちの同胞と勘違いしているあいつらの拷問は容赦ないだろうなぁ…。一般人にゃーキツイ自白剤1本で即廃人ってのを理解してないだろうし」 ブルリとサジは体を振るわせた。 「で、それで、1回おっ死んで」 「いや、1回ですよ!普通、人間って、死ぬのは1回でしょう!」 いやいやまだあるぞー、といかにも楽しげにイアンはサジに向けたひとさし指を振った。 「なんか、娘が言うことにゃあ、死んだ魂の行き先は天国と地獄の真っ二つに分かれるらしい。サジ、お前さんなら天国行きの確率高いだろうなあ………俺らとは永久にバイバイなわけだ」 語尾をしんみりと語り、イアンは何か感じ入ったように両目をとじる。茶化すそぶりを潜めた突然さに、サジは抗議の口を開ける間を忘れた。ソレスタルビーイングのクルーの持つ覚悟を言葉尻に感じ、一瞬、サジは彼らに憐憫の情を抱いてしまった。しかし、すぐさま脳裏に浮かんだ想い人の涙がサジの優しさを流し攫ってしまったが…。 グッと悔恨を飲んで、サジは思い返す。壊れろ、ガンダムと呪ったのはそう遠い過去ではない。 「…僕だって、天国には…」 「で」 たどたどしく連ねようとしたサジの言葉を奪い、イアンは目を開けた。見合わせた年長の男は、もったいぶった調子で唇を吊り上げる。実にいやらしい笑顔だ。胡散臭いこと、この上ない。 「天国の門で、ヤレヤレとひと心地ついたお前さんの魂をだ」 いったん言葉を切るイアンの背に、ゾッとする何かを感じ、サジは鳥肌を立てた。彼の修理している制御ユニットの奥、カチカチ点滅する蛍光は通信ケーブルの断面だと、そうなのだと、サジは願う。願った。 「嫉妬に狂った地獄のスナイパーが狙い撃つって…寸法だぁっ!って、嘘、嘘、」 ワハハと豪快に笑うイアンの背後で、不気味に光る緑の蛍光は2点。まるで、双眸が瞬くようにカチカチと…。 「まあ、それぐらいの危険は承知せんとなあ、あんな美人くれてやらんだろうしなあ…あの野郎は」 うんうんと何か間違った父親節を繰り出して一人頷くイアンに、引きつった顔でサジは「違いますから、それ」と注進した。彼の方へ顔を向ける度に、何故か背後の光に目が引き寄せられて仕方がなかった。目を背けたい、怖いと思うのに、止まらない。 「なんたって、『あの』ティエリアに手を出すんだからなあー」 「何時から手を出すことになっているんですか!出す気、全くないですから!!……ッ?!」 緑の光がユルリと細長く歪み、サジは寸でで悲鳴を殺した。 『本当かー?』 光は不気味なのに、どうしてか間延びした声を発すように幻視したサジは思わずコクコクと顎を振った。目の前のイアンが不審に首を傾げたが、どう受け取られても構わなかった。すると、サジの必死さが通じたか、緑の蛍光はじわじわと消え去っていった。 まるで、宇宙に拡散するGN粒子のように。 「おい、サジ?どうした」 どうしたって? そりゃあ、それは 貴方の娘さんの話は多分正しいこともあって 貴方は全く、俺に嘘を言ってなかったってことで ティエリア・アーデの…恋人は嫉妬深いってことで ああ。 なんか凄いスクープをこの手に掴んじゃった気がするよ。姉さん。 命がけっていうか、魂賭けなきゃいけないらしいけれど。 -End- |
『一心不乱』 2008/10/29(水) 02:20 終筆 サンライズ禁 BGM:一心不乱(B'z) *00 2nd season 第4話『戦う理由』をリライト。長いです。 イアンがサジと会話してるシーンを抜粋して、リライト(ロクティエ前提)。 サジとイアンの『ティエリア』談義。真面目な話がギャグに…orz 1期ロクティエ前提。ニール兄さん、大人げない。 【Back】 |
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