Forbidden love |
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撃 鉄 は 終 焉 の 合 図 |
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「エージェントの王留美御自ら、人革連の軌道エレベーターで命張るか。…ハッ、胆の据わったお嬢様だ。大したセレブだよ」 華僑最大の富豪王家が人革連の記念行事を欠席することは体裁が悪いとはいえ、直にテロがあることを知らされていて、安穏と酒を酌み交せる度胸は十五で当主になっただけはある。それにこの一件で、王留美に掛かる疑いの目が掻き消えるわけだ。 「…うちのティエリアも、おこもりが終わったと同時に最前線かよ」 (どっちのお姫様もおてんばだねぇ…) 「お姫様はお姫様らしく、頑丈なお城ん中で待ってりゃいいのに」 AEUの軌道エレベーターへ接近する機影、僚機ガンダムエクシアの動点をセンサーで捕捉しながら、ロックオン・ストラスは宇宙でのミッションを行う二人の安否へ思いを馳せた。 ミッション開始ぎりぎりまで『ヴェーダ』とのデータ共有…意思疎通を図っていたのだろうか。降下作戦で艦を離れる際に、一言声を掛けようとすれば、彼専用のシステムルームは天岩戸状態。マイスター達のリーダー格を振りかざして無理矢理ティエリアに顔だけは出させたものの、これから世界に喧嘩売るというのに彼の目に高揚も不安の影も何もなかった。 「おいおい、三世紀掛けて築いた計画が明日おじゃんになるかも知れないってのに、平気なのかよ?」 「無駄だ」 冷静そのもので眉一つ上げない様に、彼をよく知るロックオンですらゾッとした。 「不安すら無用だ。ヴェーダと太陽炉があれば、計画は履行し続ける。明日、」 人工物と人命ならば、人命の方が重いに決まっている。 …のだが、作戦の相方は蚊ほどにも思ってなかったらしく、今までの演習以上の火力を使い、人革連の軌道エレベーターを襲撃したテロリストを蒸発させた。 飛行系可変型モビルスーツのガンダムキュリオスと違い、重装備のガンダムセラヴィーは対要塞殲滅型で造られている。GNバズーカ一発で建物一つ破砕できる攻撃力を前に、テロリストたちはモビルスーツごと殲滅された。 文字通りの「蒸発」ぶりを目の当たりにして、アレルヤは敵の接近を許した己の失態を棚に上げてでも、彼に…ティエリア・アーデに苦言を申すことをやめられないでいた。 「……やりすぎだよ」 『今生かそうと、いずれ殺される命がどうだというんだ』 「…それは僕らか、…彼らか、ってことかな?」 『アレルヤ・ハプティズム。その発言に俺が答える義務は見受けられない』 「そう、だね。こんな感傷、…ただの我が侭だ」 『そうだ。ガンダムマイスターとして優柔不断な姿勢は認められない』 「………善処するよ」 アレルヤは「お守りを任せた」と肩を叩いて地球へ降下した年上の同僚が残した言葉を噛み締めた。つまり、愚痴の相手か。普段から彼との接触が多い彼にしてみれば、小うるさい程度のものだろう。 『反転した際にキュリオスを減速したな。何故あそこで』 「…善処するよ」 諦めよう…作戦行動中のティエリアは、己よりも立派に務めを果たしたのだから。 アレルヤは、今後のミッションを憂い、溜め息を零し…かけて…あわてて飲み込んだ。通信回線は開きっぱなしなのだ。 (ああ、ハレルヤ。僕は憂鬱だよ) モニターに目を向ければ、絶世の美貌。聴覚からは心地よいテノールの波音。なのに、頭の中身はどうしてこうも苛烈なんだ。 『不安すら無用だ。 ヴェーダと太陽炉があれば、計画は履行し続ける。明日、』 「『失われるのは人命だけ』…て、だけとはなんだ、だけとは」 ぶっ飛んだ倫理観に、眉根が寄る。相変わらずの杓子定規だ。 この手で世の変革を始めてしまった己の焦燥を嘲笑うように、派手にぶちかましたガンダムヴァーチェの攻撃をプトレマイオスからの報告データで目の当たりにし、ロックオンは唇を歪めた。 「まーなんて、…男前」 戻る道などないのだと、あそこで宣言されていたのだと気づく。 覚悟とも一途とも取れるティエリアの頑固さは、確かにヴァーチェを委ねる理にかなっているだろう。計画遂行の為なら、彼は躊躇しないだろう、大量殺戮兵器たるヴァーチェに搭乗することを。彼ならば歪めないだろう、ソレスタルビーイングの理念を。人殺しの戸惑いを前に、ガンダムを堕落させることもない。 手元の通信機から流れる臨時ニュースが幾度となくロックオンたちがいる『組織』の名を告げる。 ソレスタルビーイング。天上人。諍いに干渉し、無情に捌く。人でなしの天使。 しゃがれた老人の声を素通りして、ロックオンの耳は宙にいるティエリアの声を聴いた。 いつか裁かれるなら、こいつの声でいいと妥協しながら。 ![]() -End- |
『撃鉄は終焉の合図』 2008/12/08(月) 22:22 終筆 サンライズ禁 BGM:ノーザンクロス(May'n) *1期1話をリライト。王留美から始まりました。 *恋愛要素は低いけど、ないわけではない。 【Back】 |
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